カセットプレーヤーの改造
はじめに
近年、「アナログ回帰」が静かなブームとなっています。
若者の間でも写ルンです™やフィルムカメラを使ってレトロな質感で写真を撮影したり、
レコードを回して音楽を楽しんだりする光景が増えています。
アナログ特有の温かみ、懐かしさを感じることができるため、特にデジタルにどっぷり浸かった現代人の疲れた心や体を癒してくれるのかもしれません。
そのアナログブームのひとつとして、再び注目を集めているのが 「カセットテープ」 です。若い世代には馴染みが少ないかもしれませんが(筆者も20代です)、1970〜1980年代ごろに流行し、自分でカセットに音楽を記録できたり、音楽を持ち運べるようになったりと当時は大革命でした。
本記事では、そんなカセットプレーヤーを 2025年の今 に改造し、より良い音を追求したメンバーを紹介します。業務とは直接関係ありませんが、技術・ITが好きなネオレックスにはこんな人がいるんだというのを感じてもらえますと幸いです。
カセットテープを買ったけど音が悪い?

ネットで評判の良いポータブルカセットプレーヤーを買いました。しかし、こもった音でがっかり。店頭の試聴機の音は問題無いので、初期不良として交換してもらいました。
しかし、交換してもらったプレイヤーも同じくこもった音。よっぽど運が悪いようです。
もう一回交換に行こうかと思いましたが、ネット記事やSNSでも改造して改善を試みている人たちがいることを知り、やってみようと思いました。

カセットプレーヤーの中身はこんな感じ。ここにカセットテープをセットして聞きます。
写真は蓋を取り外しています。
普段はこうです。

カセットテープが中に入って、蓋が閉まります。
カセットテープ再生の仕組み
カセットテープは、テープを一定の速さで引っぱって音声信号を読むことで再生します。
カセットテープが走行する様子。普段は蓋が付いていますが、動画では取り外してよく見えるようにしています。
テープは細いフィルム状で、音声信号の情報を記録できる磁性体が塗られています。磁性体というのは電車の切符の裏側に黒く塗ってあるものと同じです。
再生ボタンを押すと、本体のモーターが回り、片側のリールからテープが引き出され、もう一方のリールに巻き取られます。テープが動く途中で「ヘッド」と呼ばれる部品で音声信号を読み込み、再生します。
そのため、ヘッドにいかに精密にテープを当てるかが鍵になります。
高音の帯域とオーディオ位相
再生ヘッドには「アジマス調整ねじ」と呼ばれる部品があり、これはヘッドのテープに対する傾き(アジマス)を微調整するためのねじです。

右上のねじがアジマス調整ねじです。中央の銀色のかまぼこみたいなのがヘッドです。
- 角度が正しい → 高音がクリアに聞こえる・左右の音が揃う
- 角度がずれる → 高い周波数の信号の感度が低下して高音がこもる・左右で音がずれる
カセットテープは非常に細かい磁気パターンで音声信号を記録しているため、ヘッドの角度がわずかに狂うだけで音質が大きく劣化します。
そのため、アジマス調整は音質を左右する重要な調整です。
一定速度の維持
「キャプスタン」と「ピンチローラー」がテープをはさみ、テープを常に一定の速さで送ることで、音程やテンポを安定させます。

中央の銀色の棒が「キャプスタン」。その上の黒いローラーが「ピンチローラー」。再生時にピンチローラーがテープを挟んでキャプスタンに押しつけられ、キャプスタンが一定速度で回転することでテープを一定の速度で走行させます。
ヘッド(中央上)、キャプスタン・ピンチローラー(左上)付近の拡大mp4
メカの問題を特定し、改造する
カセットテープの仕組みが分かったところで、現状起こっている問題を特定し、改造していきます。
- テープ走行系やヘッドとテープの位置関係が再生する毎に微妙にずれる
- ドリブンリールのバックテンション(後述)がほぼ0なのでテープが蛇行する
上記2点により、テープとヘッドの位置が不安定で、アジマス調整しても無駄になります。
とあるタイミングで調整しても、次に聞くと余計に悪化してたりします。
「テープ走行系やヘッドの位置関係が再生する毎に微妙にずれる」の対策
まずはバラします。

内部のメカの土台はプラスチックなので、剛性に難があります。
再生のたびにゆがみ、音が変わってしまいます。なので金属プレートで補強します。
そもそも、このプレイヤーの補強専用の金属プレートが普通に販売されている事自体が問題な気がします(笑)
販売している業者さんは普段はミニ四駆のカスタムパーツなどを製作して販売しているようです。
このプレイヤーの土台のヤワさに業を煮やして製作したということです。

このボタン部分の裏側を補強します。もう見るからにヤワそう(笑)

金属プレートをのせて、ねじの位置を決めて、下穴をドリルで空けます。

開けた下穴にねじを打って金属プレートを固定します。これで結構しっかりしてきます。
「ドリブンリールのバックテンションがほぼ0なのでテープが蛇行する」の対策
リールに巻いてあるテープを回すとき、送り出し側のリールにブレーキをかけるようにするとテープの流れが安定します。
たとえば、紐を片方から引っ張るとき、もう片方に何も付けないで引っ張ると紐はぷらぷらと蛇行しますが、重りを付けるとまっすぐになって安定しますよね。
ドリブンリール(送り出し側のリール)だけにバックテンションをかけて回りにくくし、テープを張らせます。
ドライブリール(巻き取り側)は元々モーターで引っ張っているので不要です。

ドリブンリールはここ

高粘度のグリスで補強(画像は付け過ぎたのであとで減らしました)
グリスはラジコンのサスペンション調整用を流用しています。

テープの走行が安定!
これで、やっとアジマス調整がまともにできるレベルになりました!!
アジマス調整

右上のねじを回すと、中央のヘッドの傾きを微調整することができます。

アジマス調整をするときは、こういったセラミック製のドライバーを使用します。
鉄製のドライバーを使用すると、ドライバーが帯びている磁気がヘッドに移り(帯磁という)、音声信号の検出性能が低下します。場合によっては消磁器という装置で消磁しなければなりません。

どこのご家庭にもあるUSBオシロスコープを、カセットテーププレイヤーの音声出力に接続し、オシロスコープアプリを立ち上げます。

アジマス調整用テープをプレイヤーにセットして再生します。
オシロスコープのA-CHがプレイヤーのL-CH、オシロスコープのB-CHがプレイヤーのR-CHに接続されています。
画面上のグラフに2つの正弦波(青と赤)がずれて表示されています。
画面中央のグラフには、右肩上がりのラグビーボールのような図形が表示されています。これはA-CHをX軸、B-CHをY軸としたグラフで、ここに描かれる曲線をリサージュ曲線と言います。
アジマス調整用テープは、アジマスが正しく調整されているカセットデッキで左右のチャンネルに同じ位相の正弦波を記録してあるものです。
本来であればアジマス調整用テープを再生したときにA-CHとB-CHにずれはないはずで、上のグラフは一致し、リサージュ曲線は右肩上がりの直線(y=x)になるはずです。
しかし、実際にはずれているためリサージュ曲線は右肩上がりのラグビーボールのような図形となっています。

では、テープを再生したままアジマス調整用ねじを回してヘッドの傾きが正しくなるように調整します。

どちらに回したら良くなるのかわからないので、とりあえず左に回してみました。
一直線になったのですが、左肩上がり(y=-x)で、上のグラフも左右で信号の位相が反転しています。
この方向に回すのはダメなようです。

今度は右に回していきます。途中で左肩上がりのラグビーボール、ドーナッツ、右肩上がりのラグビーボールをへて、この右肩上がりの直線になりました。
上のグラフも一致しているのがわかります。
さて、この状態で音楽の録音されたテープを聴いてみます。
なんと、録音に使った音源と遜色ないぐらい高音が伸びています!
なんか低音が弱くない?
前章までの改造と調整で高音がしっかり伸びてかなり音がよくなりました。特に女性ボーカルは聞いていて気持ちがいいです。
そうなると、低音の弱さがひときわ目立ちます。バスドラがドムドムと鳴るべきところがトントン、ベースがズーンと沈むところがプーンぐらいであまりにもショボく感じます。
SNSなどで回路の定数を解析した猛者の投稿をみると、再生時のイコライザー(ヘッドからの音声信号を正しい周波数特性に調整する機能)の低域の設定が弱くなっているようです。
穿った見方かもしれませんが、高音の弱さに合わせてバランスを取るため、低音も弱くしているのではと思いました。

黄色の丸で示した部品(抵抗)を交換します。
交換する抵抗値はSNSの投稿を参考にしました。(220KΩ→330KΩ)

なんとか取り外し・・・

なんと!ノートの1行よりもずっと小さいです。(幅0.5mm、長さ:1.0mm)
交換後は、バスドラもベースもズンズン来て、ボーカルも伸びやかに、ハイハットも透き通って心地よいものとなりました!
おわりに
3箇所の改造を通じて、より良い音質のカセットプレーヤーが完成しました。
ですが、今はまた別の問題に挑戦しています。
カセットテープにはヒスノイズという音量が小さいときに「さーーーー」というノイズが混じる問題があります。
カセットテープ全盛期には Dolby Noise Reduction type B / type C や dbx といったノイズを低減する仕組みがありましたが、さすがにもう部品は生産されていないので、使用する事ができません。
なので、現在はヒスノイズがある状態に甘んじていますが、自作でノイズリダクションを実装できないか検討を進めています。 Dolby Noise Reduction や dbx は特許の問題もあると思うので、今の時代だからこそできるデジタル信号処理技術を使う別のアプローチを考えています。
いやもうそれならデジタルオーディオでいいじゃんと言う突っ込みは無しで(笑)
カセットテープに録音して再生することにロマンがあるのです。
2026.03.05



